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広島地方裁判所 昭和39年(行ウ)34号 判決

広島県佐伯郡五日市町二九二四番地

原告

和田利雄

右訴訟代理人弁護士

白川彪夫

広島県佐伯郡廿日市町

被告

廿日市税務署長

柳井健三

右指定代理人検事

山田二郎

法務事務官

堀田泰宏

大蔵事務官

渡辺岩雄

吉富正輝

中本兼三

右当事者間の所得金額更正決定取消請求事件について、当裁判所は、次のとおり判決する。

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

(当事者双方の申立)

一、原告の申立て

被告が原告に対し昭和三八年一〇月三〇日付及び昭和三九年四月三〇日付をもつてした昭和三六年分所得税に係る各更正決定を取り消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

二、被告の申立て

主文同旨

(請求の原因)

原告訴訟代理人は、請求の原因として、次のとおり陳述した。

一、原告は被告に対し、昭和三六年分の所得税の確定申告として、

不動産所得 四八二、一三五円

給与所得 四〇九、五五四円

譲渡所得 九五五、二五〇円

総所得金額 一、八四六、九三九円

と申告した。

二、ところが、これに対して、被告は、昭和三八年一〇月三〇日

譲渡所得額を三、五五七、九五〇円

総所得金額を四、四四九、六三九円

と更正したうえ、

所得税額を一、〇〇六、七九〇円

重加算税額を五〇三、〇〇〇円

追加すると決定し、さらに昭和三九年四月三〇日

譲渡所得額を四、五五七、九五〇円

総所得金額を五、四四九、六三九円

と再更正したうえ、

所得税額を四五〇、〇〇〇円

重加算税額を二二五、〇〇〇円

それぞれ追加すると決定した。

三、しかしながら、右各更正決定は次の理由により違法であるから、原告はこの取消しを求める。

(一)  本件譲渡所得は、原告が中国金属株式会社に対し譲渡した土地即ち、

〈1〉 広島市舟入川口町五九一番地仮換地宅地一〇六・二六坪

右についての従前の宅地

同 所 五九一番地 宅地二〇一・四八坪 (持分二〇四七〇分の一〇六二六)

同 所 五九三番地 宅地一八六・六六坪 ( 右 同 )

〈2〉 同 所 五九三番地仮換地 宅地 九八・四四坪

右についての従前の宅地

同 所 五九一番地 宅地二〇一・四八坪 (持分二〇四七〇分の九八四四)

同 所 五九三番地 宅地一八六・六六坪 ( 右 同 )

に関するもので、右〈1〉〈2〉いずれの売買代金も三五〇万円(従つて合計七〇〇万円)であるが、そのうち〈2〉の譲渡所得の帰属時期は昭和三七年一月であるから、同所得は昭和三七年分所得というべきである。

即ち、昭和三六年二月一日原告と中国金属株式会社との間では右〈1〉〈2〉の土地の売買仮契約がされたところ、当時右〈2〉の土地上に内海春蔵所有の家屋があつたので、〈1〉の土地については同年九月二八日本契約を締結し、〈2〉の土地については、それが「さら地」になつた後の昭和三七年一月になつて本契約を締結し、その分の代金の授受、土地の引渡移転登記もすべてその際になされたから、右〈2〉の譲渡所得の帰属時期は右昭和三七年一月というべきである。もつとも右〈2〉の契約書は便宜上〈1〉と同様昭和三六年九月二八日作成したので書面の日付は同日付となつているけれども、これは前記本契約を締結した際右書面の日付を訂正することを失念したためである。

しかるに、被告が右〈2〉の譲渡所得を誤つた契約書の日付をもとに昭和三六年分所得と認定したのは失当である。

(二)  前記〈1〉〈2〉の売買代金は合計七〇〇万円であつて一、二〇〇万円ではない。

即ち、原告は右〈1〉〈2〉の土地売買に関し中国金属株式会社から、換地による減歩清算金の概算額として三〇〇万円(これは、換地に伴う減歩に対し都市計画施行者から交付されるべき清算金の金額が不確定なため、原告が買主たる中国金属株式会社から概算額として預託を受けたものである)並びに譲渡に関する経費として二〇〇万円(これは原告が右土地上の家屋所有者に対して支払うべき立退料を右の経費として受領したもの。)をそれぞれ受領したが、これらはいずれも売買代金の性質を有するものではない。

しかるに、これらを含めて〈1〉〈2〉の土地売買代金(譲渡価額)一、二〇〇万円とした被告の認定は失当である。

(三)  重加算税の賦課は申告者において所得金額の基礎となるべき事実を故意に隠ぺいまたは仮装し、その隠ぺいまたは仮装に基づいて不実の申告をしたことに対する制裁的性質を有するものであるが、原告は前記清算金及び立退料は当然所得でないものと認識し、また〈2〉の所得も昭和三七年分所得と信じていたので、これらの申告に当つて故意に基づく隠ぺいまたは仮装をしたものということはできない。従つて、原告に対する本件重加算税の賦課もまた失当である。

(被告の答弁及び主張)

被告指定代理人は、被告の答弁及び主張として、次のとおり陳述した。

一、請求原因第一、二項は認める。

同第三項のうち、本件譲渡所得は原告が中国金属株式会社に譲渡した前記原告主張〈1〉〈2〉の土地の譲渡に関するものであること、右各土地の譲渡に関し二通の売買契約証書が作られていること、〈2〉の土地が昭和三七年一月所有権移転の登記手続がされていること、以上の事実は認めるが、その他の事実は争う。

二、原告は前記土地取引についての真実の内容を隠ぺいし、仮装の事実を作出している。

原告は、昭和三六年分所得税について、法定期限内に請求原因第一項記載の所得を内容とする確定申告書を被告に提出したが、被告が調査したところ、原告は前記土地(宅地)を昭和三六年九月二八日に一、二〇〇万円で中国金属株式会社に譲渡し、そのころ右金員を受け取つているにかかわらず、右土地の譲渡に関する所得税の負担額の軽減を目的として、右会社に依頼し、右土地(従前の土地)につき、二〇四七〇分の一〇六二六の持分を昭和三六年九月二八日に代金三五〇万円で、また残りの持分を昭和三七年一月二〇日に同じく代金三五〇万円で、それぞれ右会社に譲渡したように仮装すべく、内容虚偽の売買契約書を二通作成したほか、更に右譲渡日に各三五〇万円を受領したごとく当該日付を付した内容虚偽の領収書を発行している。そしてこの仮装したところに基づいて譲渡所得金額を算出し、確定申告していることが明らかになつたので、被告は国税通則法により更正処分を行なうとともに重加算税を賦課決定したものである。

(証拠関係)

一、原告訴訟代理人は、甲第一ないし第四号証を提出し、証人山室年行、藤田安義の各証言、並びに原告本人尋問の結果を援用し、更に、乙号証の成立の認否として、第一号証は否認、第二号証の一の原告名下の印影が原告の印によるものであることは認めるが、それは冒用されたものである、同号証の二及び第三号証は認める、第四号証の一、二は不知、第五号証の一、二、三及び第六、七、八号証は認める、第九、一〇号証は不知と述べた。

二、被告指定代理人は、乙第一号証、乙第二号証の一、二、乙第三号証、乙第四号証の一、二、乙第五号証の一、二、三、乙第六ないし第一〇号証を提出し、証人山室年行、松森暹、長谷川清の各証言を援用し、甲号各証の成立を認めると述べた。

理由

原告が昭和三六年分所得税に関する確定申告を原告主張のとおりなしたこと、これに対して被告が昭和三八年一〇月三〇日及び昭和三九年四月三〇日の二回にわたつて原告主張のとおり更正決定をしたことは当事者間に争いがない。

被告が右更正決定をした理由は、要するに、原告が中国金属株式会社に譲渡した請求原因第三項記載の〈1〉〈2〉の土地の譲渡価額(売買代金)が一、二〇〇万円で、しかも、その譲渡による所得の帰属時期がすべて昭和三六年内であると認定したからにほかならない。ところが、原告は、被告がした右認定を争い、右〈1〉〈2〉の土地の譲渡価額は総額七〇〇万円で、そのうち三五〇万円は昭和三七年分所得であると主張するので、その点について判断する。

成立に争いのない乙第三、第六号証、これらと証人山室年行、長谷川清の各証言によつて成立の認められる乙第二号証の一、乙第四号証の一、二、並びに右山室証言(ただし後記措信しない部分を除く)によると、昭和三六年九月二八日西日本相互銀行広島支店において、原告は仲介人山室年行立会のもとに、原告主張〈1〉〈2〉の土地(仮換地)総坪数二〇四・七坪(従前の宅地合計三八八・一四坪)を中国金属株式会社に対し代金一、二〇〇万円で売り渡すこと、将来買主に対し交付される予定の換地処分(過大な減歩がされたこと)に伴う減歩清算金は、売主たる原告が取得するものとし、そのため買主中国金属株式会社は原告に右清算金取立ての委任状を交付することを約するとともに、即日ないしはその頃、右会社は西日本相互銀行からの借入れ金一、〇〇〇万円(借入金勘定一、三〇〇万円と定期預金勘定三〇〇万円)及び裏資金からの二〇〇万円をもつて原告に対し右代金全額を支払い、かつ前記委任状を手渡したこと、以上の事実を認めることができる。そして、甲第二、三、四号証、乙第一号証、乙第二号証の一、二、第五号証の一、二、三がそれぞれ存在している事実と乙第三、六号証並びに弁論の全趣旨によると、原告は所得税額の軽減を目的として被告が主張するとおりの作為をしたことを認めるに十分である。右認定に反する山室証人の証言部分及び原告本人尋問の結果の一部は措信できない。(なお、原告訴訟代理人の主張する立退料名義二〇〇万円と減歩清算金の預託金三〇〇万円についてふえんすると右立退料名義二〇〇万円が虚偽であることは原告本人が陳述するところであり、また、清算金の預託金三〇〇万円が虚偽であることは、前記認定のとおり、換地に伴う減歩清算金は将来都市計画施行者から交付されるが売買当事者間においてその取得者を原告と協定し、そのために原告が中国金属株式会社から委任状を受けていることから明らかであつて、右いずれの金額も売買代金の一部として授受されたものであることは乙第二号証の一(念書)の記載に照らし疑う余地がない。)従つてまた、本件重加算税の賦課に違法があるとの原告の主張も採用の限りでない。

そうすると、以上の認定事実を前提としてなした被告の本件各更正決定は正当というべく、右認定に反する事実を前提とする原告の本訴請求は失当であつて、棄却を免れない。

よつて、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用したうえ、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 熊佐義里 裁判官 角田進 裁判官菅納一郎は転任のため署名捺印ができない。裁判長裁判官 熊佐義里)

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